一蘭待ち時間問題を考える

一蘭といえばとんこつや唐辛子といった味覚上の特徴とは別に、食事に注力していただくという名目のもと、客席はすべてカウンターで両脇に衝立、さらに目の前にはすだれが下ろされ完全独房体制が確立するという、実にディスコミュニケーションを涼とする者たちにとって心地よいシステム「味集中カウンター」で有名なラーメン屋だ。
私は渋谷の店舗をよく利用する。
http://www.ichiran.co.jp/pc/hp/tenpo/tenpo/shibuya.html

発端

この間も行ってきたのだが、大抵数人の行列ができている。金曜の晩などは特に混んでいることが多い気がする。仕事帰りでひとり疲れた自分はともかく、友人たちと楽しげにしゃべる若者たちが味集中カウンターはちょっとアレじゃないか、と思うがまあこれは余計なお世話か。食事にカネをかけられぬ経済事情およびそんなものはさっさと終わらせて他の楽しみに集中したいという思想があるに違いない。
いつものように地下へ向かう階段で並んでいると、壁紙に「一人一分が目安です」とある。10人並んでいれば10分待ち、20人ならば20分ということだそうだ。
もっと列を進んでいくと「ここまでくればあと5分」などと書いてあって、明らかにそこから5人以上は並べる位置なので結構いい加減な目安だとは思うが、さてここで考えた。
「どのような計算をすれば、一人一分とわかるのか」
言い方を換えれば「一人一分という結論を出すために必要十分なパラメータはどれか」。

食事時間に関する考察

うっかりしたひとのために注意しておくと、これは「当店のお客様はみな一様にきっかり一分でラーメンを召し上がってくださいます。つーか食え」という意味ではない。客席は21席だ。満員状態でも1分経てばその21人のうち誰かひとりが立ち上がって空席ができるという意味のはずだ。とりあえずここではこの張り紙は上記のような隠れた脅迫ではない、と思うことにする。
まずは席についてからラーメンを食べ終わり席を立つまでの時間tが必要だろう。厳密に言えばtには以下が含まれる。

  1. 食券を確認しコップや替え玉札、ゆでたまごを内容に応じて出す。ゆでたまごがオーダーに含まれない場合は「よろしければ御賞味ください」と無理矢理にでも置いていき、手をつけたが最後ゆでたまご代を地獄の底まで請求する
  2. ラーメンを作成する。ここの工程はわからない。スープは当然作り置きだろうが、麺はあらかじめ推測してゆでられるものかどうか、実は完成品を瞬間冷凍しておいて恐るべき能力のレンジで加熱するのか、実はこの間に客をゆでたまごに含まれた薬品により洗脳し「ラーメンを食べた」という記憶を植え付けそのまま帰すのか、さまざまな場合が考えられるがとりあえずここでは考えないでおく
  3. 客、ラーメンを食う(あるいは食っていると思っている)
  4. 食べ終わった客に、「さっさと立ち上がって帰れ」という行列に並ぶ他の客や店員たちの思念が電波となって届く
  5. 食器を片付け次の客が座るまでの準備をする

実際には替え玉や追加きくらげなどのオプションを行使する者もいるし、同じ人間でも普段は替え玉3玉を平らげさらにスープにごはんを投入しておじやにして全部飲み干した後に「さ、飯でも食うか」と上の松屋に移動するが狙っている男と来店しているときは「お肉苦手なのぉ」などと頼まずとも良いはずのチャーシューをわざわざ男の丼に投げ込み麺を一本ずつつぷつぷとゆっくり咀嚼し「ああん、もう食びられにゃーい」などと甘えた声を出して彼の俗情を喚起せしめ、その後の円山町方面的展開を決定的にせんと画策する女子もあるだろう。ないか。いやあるだろう。
つまり食事に掛かる時間はまちまちであるはずで、さらには食い終わったならさっさと出ればよいものを連れ立ってやってきた男が「あれ、結構少食?つーかさ、休日とかどーしてんの?いやちげーよそんなんじゃねーよ」などとどうでもいい会話を上記女に仕掛けたりして極端に回転が悪くなるケースもありえる。
しかしまあここでは、客の滞在時間は平均してtとし、それぞれ連続して2席が空くまで待つなどすることはなく独立してさっさと食べると仮定する。

平均時間の算出

最良のケースは列に並んだとたん誰かが食べ終わって立ち上がる場合だ。おっと前提として、席は常に満席であるとする。大抵私が行くときはそうだからだ。今回は行列を一人消化するのに掛かる時間、を考えているのだから待ち行列の長さは問題ではないのでひとまず客は無限に訪れ続けていると考えても良いはずだ。
最悪のケースは、21人全員がいままさに席についたところで、全員この後たっぷりt時間掛けて食事をする場合だろう。
最良0〜最悪t。じゃあ中をとって平均(0+t)/2=t/2だ、食事に20分掛かるとしたら一人10分。…はあきらかに間違いと思われる。これでは席の数がパラメータにないので、たとえば100万席ある一蘭が仮に存在したとしてもたった一人誰かが食べ終わるまで平均10分ということになるが、それはさすがに想像しにくいし、そもそもそんな規模の店では「とんこつはりがねおかわりだだだだ」などとこなちゃんが叫んだところでバリカタだろうがハリガネだろうが超やわらか伸び伸び麺になっているに違いなく、店員が徒歩で麺を運ぶシステム自体を再検討する必要があるだろう。

席の数によって、最悪のケースが発生する確率も変わる。席が3つしかない一蘭では出番や人気の点からこなた、かがみ、つかさしか座れず、みゆきさんは一人歯の治療に向かわざるを得ない。これはよくみられるケースである。席が10、20であれば大抵の出演者は座ることができるがすでにこの時点で全員同時に食べ終わりいっせいに立ち上がることは少なく、席が100, 200であればほとんどまれで、席が1000, 2000あればコミックマーケット並の混雑が予想され、席が1万、2万ともなればアニメイト他各店舗で平積み、10万、20万となるとチャート1位が約束され、席が100万あれば全員が今座ったところということは非常にまれで、すなわちオリコン1位を獲得するのはそれだけ難しい。

結論に行く前に挫折

たしかこのような場合指数分布に従うと考えればよかった気がしてきたが、平均が1/λということだけは思い出したものの、そこから先どのように計算すればよかったのかまったく覚えがない。確かポワソン分布と…いやあの、その、まあいいや。はは、は。誰かちゃんと教えてください。

例外

なお、これには例外があって客が全員同じ時間に席に着くことが一日に一度必ずある。すなわち開店直後だ。このときばかりは各人食べるペースにばらつきはあるものの平均t時間で食べ終わり次の客が座れる。他にガス爆発、異臭騒ぎ、店内での乱闘、店内の爆撃、集中豪雨による浸水、店外で芸能人のゲリラライブ、店外で傭兵のゲリラ活動、店内での大量出産による客の急増、渋谷は初心者には怖い街といったクレーム、けなげな声優の苦悩、伝説の少女A、その他さまざまな異常事態によって例外は発生する。

すなわち、一蘭渋谷店は一分に一度の割合で上記のようななんらかの異常事態が発生している可能性がある。心にとどめておきたい。